チャット時代に再評価されるメールの役割
株式会社エアー 営業技術担当
「メールを廃止しよう」——近年、社内コミュニケーションの見直しを巡り、こうした議論が周期的に浮上します。背景には、チャットや共同編集を前提とした働き方の普及、モバイル中心の利用環境、そしてCC・BCC運用や誤送信といったメール特有の負担への疲弊があります。
実際、Microsoft TeamsやGoogle Workspaceといった、電話、メール、チャット、Web会議などを統合した”ユニファイド・コミュニケーション&コラボレーション”(UC&C)市場はクラウドを中心に拡大し、2024年には前年比7.5%増の691億ドル規模に達しました。主要ベンダーの存在感も高まっています。※1
コラボレーション分野では、MicrosoftがUC&C収益シェア44.7%(2024年Q1)で首位を維持し、ZoomやCiscoが続いています。ソフトウェア主体の構成比は9割近くに達し、メッセージング、会議、ドキュメント協働を同一基盤に統合する潮流が定着しつつあります。Teamsは高水準の利用率を維持し、Slackは外部連携による差別化を進めるなど、「メール以外の主戦場」が明確になっています。※1
その一方で、世界のメール送受信数は2024年時点で1日3,616億通、2028年には4,240億通超が見込まれ、依然として増加傾向です。サインアップ通知や請求、契約関連などの正式連絡において、メールはインターネットの「共通言語」としての役割を維持しています。※2
では、「メール廃止」は現実的でしょうか。結論から言えば、全面的な廃止は非現実的です。
第一に、取引開始、見積、契約、監査対応といった対外コミュニケーションでは、依然としてメールがデファクトスタンダードであり、環境非依存性や証跡性が評価されています。
第二に、アーカイブやeディスカバリなど、規制・監査対応ではメール基盤を前提とした運用が成熟しています。
第三に、セキュリティ面です。メールは主要な攻撃経路である一方、対策は高度化しており、リスクの本質は「メールそのもの」ではなく「チャネルを使い分けないこと」にあります。
実際にEUの統計では、オンライン通話・メッセージングの利用率が85%、Eメールが80%と、「置き換え」ではなく「併用」が行われていることがわかります。※3
重要なのは、「やめる/続ける」という二項対立ではなく、「どう使い分けるか」を設計することです。実務的には、社内の迅速な協業はチャットや会議基盤、対外連絡や意思決定の最終文書はメールとする用途別ルールが有効です。あわせて、SPF/DKIM/DMARC、誤送信対策、監査ログの整備といったセキュアなメール運用、さらにチャット側の外部連携や保存ポリシーの明確化が求められます。
日本では、クラウド活用が定着する一方、テレワークは目的に応じた利用へと移行しています。年齢層によってはメール利用が依然として高く、世代・役割・対外関係によって最適なチャネルは異なります。一律のメール廃止は現実的ではありません。
今後、社内協業はUC&C基盤へ移る一方で、メールは社外との正式な連絡手段としての比重を強めていきます。その結果、メールは「最も外部に開かれたチャネル」となり、誤送信やなりすまし、リンク共有を起点とした情報漏えいリスクへの対策が一層重要になります。
求められるのは、社外向けチャネルとしてのメールを再定義し、厳格なセキュリティとガバナンスを適用することです。使い分けのルール、監査可能性、ユーザー教育を整備し、「連絡手段」ではなく「情報の流れ全体」を設計することこそが、メール廃止論に代わる現実的な解と言えるでしょう。
参考)
※1 IDC Research「Worldwide Unified Communications and Collaboration (UC&C) Market to See Continued Growth through 2028, According to IDC」https://my.idc.com/getdoc.jsp?containerId=prUS52530824
※2 The Radicati Group「Email Statistics Report, 2024-2028」https://www.radicati.com/wp/wp-content/uploads/2024/10/Email-Statistics-Report-2024-2028-Executive-Summary.pdf
※3 Eurostat「People online in 2024」https://ec.europa.eu/eurostat/web/products-eurostat-news/w/ddn-20241217-1
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