カルテル と 入札談合

米国のカルテル摘発事例

日本の自動車部品メーカー37社がカルテルの疑いで摘発されました。3,000億円を超える巨額の罰金の他、30人近くが禁固刑を科され実際に連邦刑務所に収監されました。米国の司法当局は個人への刑事罰が不正行為の防止の有力な手段と考えているようです。日本でも独占禁止法で2010年に約160億円の納付が光ケーブルの納入業者に命じられました。欧州、中国などでも同様の動きがあります。

米国では大陪審捜が始まるとサピーナという召喚令状によって関係者の電子データ(電子メール、ドキュメントなど)、手書きのノートや手帳などの関連するものをすべて当局に開示する義務があります。

サピーナを受領すればただちに、訴訟ホールドで電子メールやドキュメントなどの関連証拠を保全、収集したうえで、提出する必要があります。

削除されたファイルやメールの復元や確実な証拠保全を専門とするディジタルフォレンジック(注2)という法律とコンピュータ技術の専門家の力を借りることもあります。

カルテルの事実を自己申告するリーニエンシー制度(付録1)によって摘発件数が飛躍的に増えたと言われています。この制度によって司法取引を行う場合には価値の高い情報をなるべく多く、迅速に(早いほど減免率が高い)提供することが重要です。

社内の数十人のメールデータを外部弁護士グループがレビューしますので日数と費用は膨大になります。日数と費用を削減するにはメールをキーワード検索や重複の排除でレビューする対象を絞り込む必要があります。調査、分析した文書と電子データは最終的に証拠として訴訟の相手方に開示します。(eディスカバリーについては 付録2

 

カルテルの訴訟リスクを減らす

海外企業との取引においては日本の商習慣を海外ルールに合わせるような、教育やルールの制定が必要です。米国で自動車関連のカルテルの摘発が続いた(付録3)背景には日本の商習慣が米国のルールでは不正と認定されやすいこともあります。

日本では同業他社間で懇親会を持ち、日程などを電子メールでやりとりするなどの商習慣がありますが、米国では談合の根拠とされる恐れがあるそのような会合などは持たないと言われています。

  • 同業他社同士で接触しない
  • メールなどで談合を疑わせる文言は使わない。国際カルテルとして認定された事案の多くは電子メールによる打ち合わせが重要な証拠や調査のきっかけになっています。同業者の懇親会の打ち合わせなどで「いつもお世話になっております」という文言を普段の習慣でつい書いてしまったためにそれが価格調整のお礼と見なされた例もあるほどです。
  • 関連する業務を行っている部署や同僚に対して、必要以上に多くを電子メールの宛先に含めて気軽に情報を共有する傾向がありますが、米国での捜査や民事訴訟の可能性がある事案についてはeディスカバリーの開示対象者をむやみに増やすことになるので慎重に考える必要があります。
  • 他社から調整の打診があった場合に日本では言葉の上では拒否の表現を柔らかくすることがありますが、それが談合の合意とみなされることがありますので明確な談合否定の証拠を残す必要があります。
  • 日頃の社内監査と教育
    今後は自動車関連以外の業界で米国、中国、EUで行われることが予想されますので日頃からリスクを減らす努力が必要です。
    個人的な意見や法的判断を内容とする電子メールがやり取りされていた場合、訴訟になれば相手方に開示されます。このような記述は例え従業員の個人的な見解であってもその記述が不利益な証拠と認定されてしまう危険性があります。このような危険性を回避するため、個人的な意見や法的判断を文書に記載することを控えるように社員に注意喚起する必要があります。また教育とともに日常的にメール監査を実施して、誤解される危険性のある表現を指摘することも企業のリスクを避けるために必要です。

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注2 ディジタルフォレンジック

コンピュータ・フォレンジックとも呼ばれ、PCやサーバに残されたデータを専門的な技術を用いて調査し、不正の痕跡、メール削除などの隠蔽工作、データ改ざん等の有無を調査して法的証拠を見つける手法です。

検察内でのデータ改ざん調査、国際カルテルの摘発への対処、情報漏えい疑惑における調査、論文データ不正改ざん調査、パワーハラスメント訴訟の対処、大相撲八百長事件調査

など実施例は枚挙にいとまがありません。

付録1 課徴金減免制度(リニエンシー)

課徴金減免制度とは,事業者が自ら関与したカルテル・入札談合について,その違反内容を公正取引委員会に自主的に報告した場合,課徴金が減免される制度です。公正取引委員会が調査を開始する前に他の事業者よりも早期に報告すれば,課徴金の減額率が大きくなる仕組みとなっており,公正取引委員会の調査開始日前と調査開始日以後とで合わせて最大5社(ただし調査開始日以後は最大3社)に適用されます。事業者自らがその違反内容を報告し,更に資料を提出することにより,カルテル・入札談合の発見,解明を容易化して,競争秩序を早期に回復することを目的としています。(公正取引委員会、課徴金減免制度について)

 

申請順位と減額率(例)

順位 減額率
調査開始前 ① 100%
調査開始前 ② 50%
調査開始後 ③ 30%
調査開始後 ④ 30%
調査開始後 ⑤ 30%

 

付録2 eディスカバリー(電子証拠開示制度)

米国民事訴訟の手続きとして訴訟当事者同士がすべての資料を自ら収集して開示する制度で、最近は電子データがほとんどのため電子データの開示手続きをeディスカバリーと呼びます。 この制度は民事訴訟に止まらずFTC(連邦取引委員会)やSEC(証券監査委員会)の調査においても同様の証拠開示が求められます。この情報開示のワークフローとしてEDRM(電子情報開示参考モデル)が作業の指標として使われています。

日本の企業が訴訟の対象となった場合には従業員が作成したメールやドキュメントファイルを中心にレビューを行うために第三者委員会を作り、法律的な判断が必要なため外部弁護士が中心となって調査を行います。委員会は調査報告として保全された文書の中から無関係の文書を取り除き、関連する文書のみを開示対象とします。企業の日常業務の多くが電子化された現在、確認・検討の対象となる文書の量が従来に比べて膨大になりました。そのため、eディスカバリー対応において最も時間と費用を要するのがこの関連文書を確認・検討する過程です。誤った処理をした場合は証拠として認められず、隠ぺいや削除の大きなペナルティが課せられます。文書の中でも日々交換される電子メールは社内外の生のコミュニケーションが記録されているので、訴訟では重要な証拠とされます。大量の電子メールの調査のためにメールアーカイブを正確に高速に日本語、英語その他の言語で検索して、所定の形式のファイルに出力するツールの重要性が格段に増してきました。

eディスカバリーは、多くの弁護士がチームでレビューするものです。従来のオンプレミスのメールサーバーではデータ保護(文書消去防止)、調査対象者への配慮と社内の動揺を考慮し、完全なメールデータのコピーを取ってから、締め切った会議室や弁護士事務所内でレビューすることが多く、個人のPC内にあるメールやデータは夜間や休日に本人またはシステム管理者の協力を得てコピーすることもありました。

国内で電子メールアプリケーションシェア一位のMicrosoft Exchange メールサーバーは米国の資料では約32%がクラウドExchangeオンラインやOffice365に移行し、今後さらに比率が上がっていくと予測されています。日本でもオンラインサーバーの利用に移行すると、夜間のデータコピーや締め切った会議室での作業は必要がなくなり、対象企業のシステム管理者とセキュリティ管理者の協力を得て、「訴訟ホールド」「eDiscovery権限」により被調査対象者にも一般社員にも意識されることなく、いつでも調査が可能になります。

これは訴訟が見込まれて調査委員会の設置に至る前に、日常的に社内の監査者がリスク回避の行動がとれることを意味します。eディスカバリーのツールとしてはマイクロソフト社以外のサードパーティからも供給されています。パナマ文書の解析で有名になったNuix社のメールや文書ファイルを対象とする高額な不正調査ツールがよく使われてきました。日常的な社内での監査を行うためのメール監査ツールもAIR社のWISE Audit、Office365 Search他、各社から販売されています。

付録3 公正取引委員会で認定された日本企業のカルテル課徴金 

米国 屋内配線用の電線カルテル(4社) 100億円
日本 通信用光ファイバー(5社) 160億円
EU 燃料サーチャージ(11社) 900億円
EU ベアリング(4社) 400億円