取適法と下請法の違い、実務上のポイントとは?(2025年事例一覧付き)
株式会社エアー マーケティング担当
目次
なぜ今「取適法」改正が重要か
2026年1月1日に、下請法は「中小受託取引適正化法(取適法)」へ改正施行されました。
下請法は、長年にわたり発注者と受注者の取引を規律する法律として運用されてきましたが、近年は受注側がコスト上昇分を十分に価格転嫁できない問題が顕在化していました。また契約形態の多様化や、取引のデジタル化への対応の必要性もありました。
これらを受けて、取適法ではサプライチェーン全体で公正な取引の実現のために、適用範囲の拡大などが行われています。
取適法は価格協議や取引条件の決定など日常の取引実務そのものが規制対象となります。法務部門だけでなく、購買・営業などの現場担当者や監査部門にも直接影響が及びます。本コラムでは、取引現場や監査の観点から、取適法の変更点や2025年の旧下請法の違反事例、実務上のポイントをご紹介します。
取適法の変更点
まずは下請法と取適法の違いを抑えておくことが重要です。取適法への改正のポイントは大きく分けて、適用範囲の拡大、禁止行為の追加、そして運用面の強化です。
主な変更点
・適用範囲拡大
・従業員数基準:資本金が基準以下でも、従業員数が一定数以上であれば対象に
・特定運送委託:物品の運送を他の事業者に委託する「特定運送委託」も対象に
・新たな禁止行為の追加
・協議に応じない一方的代金決定の禁止:「買いたたき」に加え価格交渉のプロセスも規制対象に
・手形払等の禁止:給付受領後60日以内の支払いを徹底
・事務手続きのデジタル化促進
・メール等の電磁的方法での発注内容等の明示の「事前の承諾」が不要に
・その他、面的執行の強化など
このように見なければいけない場面が広がった一方で、下請法時代からの違反の基本構造は、受領拒否、支払遅延、代金の減額、返品、買いたたき、不当な経済上の利益の提供要請など、大きく変わっていません。
(参考:4つの義務と11の禁止行為)
近年は公正取引委員会による取り締まりも強化されているため、法改正を機にどのような違反事例が多いかを知っておくことも重要です。では、実際にどのような事例が問題となっているのでしょうか。
2025年の下請法違反事例
2025年は、無償保管を要請する違反事例が非常に目立ちました。製造・販売メーカーが金型や治具の無償保管を長期間強制したケースや、自動車販売会社による代車の無償要請などがそれにあたります。その他にも代金の減額や発注品の受領拒否など、幅広い業界での従来型の違反事例が複数公表されています。これら一つ一つの事例を見ると、「長期間慣行として行われており問題視していなかった」ケースも多かったことがわかります。
2025年の勧告事例一覧
(本サイトで紹介した事例のみ)
| 公表日時 | 企業・組織名 | 違反事項 | 詳細 |
|---|---|---|---|
| 1/23 | 東京ラヂエーター製造社 | 不当な経済上の利益の提供要請 | 金型の無償保管 |
| 2/18 | 愛知機械工業社(日産子会社) | 不当な経済上の利益の提供要請 | 金型等の無償保管 |
| 2/20 | 荏原製作所社 | 不当な経済上の利益の提供要請 | 金型等の無償保管 |
| 2/28 | ビックカメラ社 | 下請代金の減額 | PB商品の支払代金の「販売支援金」等名目の不当な減額 |
| 3/27 | シャトレーゼ社 | 受領拒否、不当な経済上の利益の提供要請の禁止 | 発注品の受領拒否、拒否した商品の無償保管 |
| 4/24 | スズキ自販大分社(スズキ子会社) | 不当な経済上の利益の提供要請 | 代車の無償要請 |
| 5/9 | 井関農機社 | 不当な経済上の利益の提供要請 | 金型等の無償保管 |
| 5/13 | 日精樹脂工業社 | 不当な経済上の利益の提供要請、不当な給付内容の変更及び不当なやり直し | 金型等の無償保管、不当な発注取り消し |
| 7/15 | SMK社 | 不当な経済上の利益の提供要請 | 金型の無償保管 |
| 9/10 | ヨドバシカメラ社 | 下請代金の減額 | 「リベート」等名目の不当な減額 |
| 9/17 | シマノ社 | 不当な経済上の利益の提供要請 | 金型の無償保管、無償棚卸し作業 |
| 9/29 | Olympic社 | 下請代金の減額 | PB商品の支払代金の不当な減額 |
| 10/9 | リョーノーファクトリー社(三菱マヒンドラ農機子会社) | 不当な経済上の利益の提供要請 | 金型の無償保管 |
| 11/13 | 三菱ふそうトラック・バス社 | 不当な経済上の利益の提供要請 | 金型の無償保管 |
| 11/27 | 福岡ダイハツ販売社 | 不当な経済上の利益の提供要請 | 代車の無償要請 |
| 12/4 | 南日本運輸倉庫社 | 下請代金の減額 | 「元請け管理手数料」名目の不当な減額 |
| 12/8 | スニック社(スズキ子会社) | 買い叩き、不当な経済上の利益の提供要請 | 量産終了後の部品単価据え置き、金型の無償保管 |
| 12/12 | センコー社 | 不当な経済上の利益の提供要請 | 無償積み下ろしや長時間荷待ちなど |
| 12/16 | マキタ社 | 不当な経済上の利益の提供要請 | 金型の無償保管 |
取適法の実務上の注意点
1. 現場担当者の観点
取適法に対応するうえで、購買や営業などの現場担当者は、日々の取引の進め方が結果として不適切な負担を生んでいないかを意識することが重要です。違反事例は意図的な不正だけでなく、長年の取引慣行や担当者間の暗黙の了解の中でも生じています。現場では特に次のような点に注意する必要があります。
- 取引慣行を前提に業務を進めない:これまで問題なく続いていた取引方法であっても、その慣行自体が法令上問題と判断される可能性があります。「以前からそうしている」という理由だけで対応を続けるのではなく、現在の取引条件として妥当かを定期的に見直すことが重要です。
- 条件を曖昧にしない:値下げ、納期変更、追加作業の依頼など、取引条件に影響する事項は口頭や曖昧な表現で進めるのではなく、費用負担や責任の範囲を明確にしたうえで合意しておくことが必要です。
- 無償対応を当然視しない:試作品対応、技術支援、保管、仕様変更への対応などは、契約に明記されていないまま無償で行われるケースが少なくありません。こうした対応が継続すると、結果として不当な経済上の利益の提供要請と評価される可能性があります。
- 設備・金型・保管の扱いを明確にする:製造終了後の金型や設備を委託先が保管している場合、発注がない期間の保管費用や管理責任が曖昧になりやすく、多くの違反事例でも問題となっています。保管期間や費用の扱いを整理しておくことが重要です。
2. 法務・監査の観点
一方、法務・監査部門の役割は、こうした現場の取引が適正な範囲に収まっているかを確認することや、監査を通じて違反を早期に発見し、是正につなげることが極めて重要です。近年は公正取引委員会と中小企業庁による取り締まりが強化されており、不適切な取引が長期間続けば、悪意の有無に関わらず重い措置が下されるリスクがあります。
- 証跡の体系的管理・検索体制の整備:取適法では、旧下請法に比べてメールなど電磁的方法による「発注内容等の明示」(4条書面:旧3条書面)の条件が緩和されました。これにより、今後はこれまで以上にメールやチャットによる取引上のやり取りが増加することが予測されます。内部監査による早期発見や調査対応の観点から、7条書類(取引記録)だけでなく、価格協議や仕様変更などの経緯も保存したうえで、膨大な記録から迅速に確認できる体制を整えることが重要です。
- 早期発見・是正ルールの徹底:違反は故意でなくとも長期化すれば重い措置対象となるため、小さな不適切状態でも速やかに是正する仕組みを作る必要があります。具体的には、社内通報や監査通報ルートなどを明確化し、違反疑念が出た時点で関係部署が協力して原因調査・速やかな是正処理を行うプロセスを規定しましょう。
多くの大企業での導入実績を持つ「WISE Audit」は、膨大なデータからの迅速な検索や効率的な監査ワークフローの作成を可能にするメールアーカイブ・監査ソリューションです。メールの長期大量保存だけでなく、大量のデータから、例えば「同条件」「無償」「据え置き」といった表現を含む疑わしいメールを抽出し、AI判定機能によって不正の疑いを「危険」「予兆」「未検知」の3段階に分けて表示します。7条書面などの形式的な確認だけでは見落としがちな取引の実態を、即座に把握することが可能です。
まとめ
取引法は大枠としては旧下請法と変わりませんが、企業はこれまで以上に取引の実態を踏まえた適正な取引管理を求められるようになりました。違反は意図的な不正だけでなく、長年の取引慣行や担当者間の暗黙の了解の中で生じています。取引の進め方や慣行を見直し、「相手に無理をさせる取引が、どこで起きているか」を発見することが重要になっていきます。
企業としては、こうした日常のやり取りを適切に保存し、必要な際に迅速に検索・確認できる仕組みを整えることで、違反リスクの早期発見や是正を円滑に行えるようになります。取適法対応は単なる法令遵守にとどまらず、取引の透明性を高め、サプライチェーン全体で健全な取引関係を維持するための重要な取り組みといえるのではないでしょうか。
参考)政府広報オンライン「2026年1月から下請法が「取適法」に!委託取引のルールが大きく変わります」https://www.gov-online.go.jp/article/202511/entry-9983.html
公正取引委員会「中小受託取引適正化法ガイドブック 下請法は取適法へ」https://www.jftc.go.jp/file/toriteki002.pdf
1000万通1秒の高速検索 必要なメールを素早く見つけ出しメール監査を支援
WISE Auditの概要を見る
Microsoft 365 のメール監査業務負担を軽減!AIを使った監査サービス「Audit One」の概要を見る
これまでの社員コラムをチェックコラム一覧を見る